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特定非営利活動法人子どもNPOセンター福岡

【報告】子どもの権利シェアプロジェクトシンポジウム <叱る依存>におちいらないために

子どもNPOセンター福岡では、2022年7月24日(日)、子どもの権利シェアプロジェクトシンポジウム「<叱る依存>におちいらないために」を開催しました。このシンポジウムは、子どもの権利について保護者など幅広い関係者に身近なテーマとして分かりやすく伝え、福岡市内で子どもの権利への理解を一層広めることを目的として開催したものです。

第1部では臨床心理士・公認心理士の村中直人さんをお招きし、今年2月に発売され現在でも大きな話題を呼んでいるご著書『<叱る依存>が止まらない』の内容をもとにご講演をいただきました。

続く第2部では、現役の中学生、高校生4名と村中さんを交えたトークセッションを開催しました。子どもたち自身の経験や思いを共有いただいたり、会場からの質疑応答も交えたりしながら、<叱る依存>と子どもの権利、社会や教育システムのあり方など、多岐にわたる話題について一緒に考えました。

<シンポジウム概要>

開催日:2022年7月24日(日)13:00~17:00

会場:あじびホール(オンライン同時配信)

主催:特定非営利活動法人子どもNPOセンター福岡

協力:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社

【第1部:基調講演】

 <叱る依存>におちいらないために ~誰もが生きやすい社会を目指して~

 臨床心理士・公認心理士 村中直人さん

第1部の基調講演では、臨床心理士・公認心理士の村中直人さんより、ご著書『<叱る依存>が止まらない』の内容をもとにお話しいただきました。

【ご講演内容から抜粋】

  • 今まで、「叱る」を考えるときは、「叱られる」側の話が多く語られてきた一方で、「叱る」側のことは考えられてこなかった。
  • 叱るという行為には、叱る側の自己肯定感や、処罰感情の充足といったニーズを満たす側面がある。また、叱ることが、その人が抱えてきた生きづらさや苦痛を和らげていることも考えられる。これらが、叱るという行為が手放せなくなる落とし穴になっているかもしれない。
  • 「叱る」という言葉の定義の中には、必ず相手に対する攻撃的な側面が含まれる。こうして見ると、「怒る」と「叱る」は叱る側から見た違いでしかなく、叱られる・怒られる側からすると、両者はネガティブな感情体験を与えられる点で何も違いはない。
  • 叱られた人間が学ぶことは状況の回避策だけ。人から与えられた苦痛や我慢で人は強くはならないし、成長もしない。
  • 大切なのは「叱るを手放す」こと。そのために大切なのは「前さばき」、つまり何か行動が起きる前の準備や対応である。私たちは予測力を鍛えることが必要。
  • <叱る依存>の予防を考えるとき、一番はじめにやってほしいことは、自分が持っている権力を見つめなおすこと。相手に求めている「あるべき姿」を見つめなおすこと。
  • 人を成長させたり我慢強くするのは、自分で選んで、やりたいことのためにする我慢。やりたい、ほしいという欲求をベースに、主体的にわくわくしながら試行錯誤する状態(「冒険モード」)のときに、人は最も学び、成長する。
  • 私たちは、自己決定を促す、サポートするという意識を忘れてはいけない。いかに相手の「冒険モード」を引き出すかを突き詰めて考えていくことで、気づかないうちに、叱るを手放すことに繋がっていく。

ご講演の最後には、村中さんから「テイクホームメッセージ」をいただきました。

私自身は、叱ることを完全に手放せた完璧な父親でも経営者でもありません。ずっと一人で「叱るに依存し始めていないか」と自問自答を続けてきました。『<叱る依存>がとまらない』を書いたのはそんな孤独な状況に耐えられなくなり仲間が欲しかったという個人的ニーズも大きかったように思います。みんなで「叱る」から自由になって、叱るを手放し続けるために助け合える、そんな社会を目指す仲間になっていただけたらとてもうれしいです。

   

【第2部:トークセッション】

<叱る依存>と子どもの権利

 福岡県内在住 中高生4名

 モデレート:重永侑紀

 コメント:村中直人さん

第2部では、現役の中学生、高校生4名と村中さんを交えたトークセッションを開催しました。はじめに、講演を聞いた子どもたち自身の経験や思いを共有してもらいました。

【講演に対する子どもの受け止め、感想】

  • 小・中・高と、叱られることが多かった。リーダーを務めることが多かったので、厳しい目で見られていたように思うし、それに対して、仕方ないと思っていた。「叱る」を手放そうとする人は現状では少数派かもしれないけれど、今後それを多数派に変えていくことが必要だと感じた。
  • この本を読むまでは、ある程度は叱ることも大事なのではないかと思っていた。叱らないと、将来、仕事をするときにダメになってしまうのではないか、という思いが自身にもあった。叱られる側も、叱られることに依存している面もあるのではないかと感じた。
  • 叱る依存は、言い換えれば人に対する「やつあたり」ではないか。そうした面は自分の中にもあり、この講演を聞いて自分でも変えていこうと思えた。
  • よく先生から、「あなたのことを思って言っている」と言われるが、それならもっとも優しく言ってほしい、と思っていた。村中さんに、僕の学校に来て先生に向けて講演してもらいたい。

会場からの質疑応答も交えながら、<叱る依存>と子どもの権利、社会や教育システムのあり方など、多岐にわたる話題について一緒に考えました。一部のみですがやり取りをご紹介します。

〇リーダーの責任、連帯責任という風潮

(村中さん)現在の教育の仕組みでは、1人1人が、何を学ぶか、どのペースで学ぶかを自己決定できるようになっていないのではないか。どう管理するかに焦点が当たる仕組みの中だと、リーダーに責任を負わせたり、相互に監視させる仕組みなど、「叱る」の効果を使うことが誘発されてしまうのではないか。

〇叱られる側の依存

(中高生)叱られることに慣れてしまうこともある。叱られすぎたら、怖いという感情もなくなり、別にいいかな、と思ってしまう人も出てくるのではないか。

(中高生)叱られたときは、自然と防御している。言い返したら、言い返した分返ってくる。「意見を知りたい」と言われるけれど、言い返したら倍になって返ってくる。そうなると、次に怒られたときは、言い返すことなく防御してしまう。

(村中さん)叱られた時の反応には、戦う(fight)、逃げる(flight)ともう1つ、固まる(freeze)という反応がある。叱られることで感覚が麻痺する、動けなくなる、というのはこのfreezeに当たると考えられる。

〇子どもが「冒険モード」になるために、大人ができること

(中高生)興味のあることはどれだけでもやれる。それに対して、興味ないこと、苦手なことはどうしてもできないし、やりたくない。将来自己決定をするなら、好きなことを選びたい。

(中高生)苦手なことと好きなことの両立の方法を知りたい苦手なところも、社会に出たら、最低限は押さえておく必要があるのではないかと思う。

(村中さん)私自身は、両立の必要性はあまり感じない。やらなければいけないことが将来待っているからといって練習する必要はなく、大人の側の「やらせておきたい」という欲求ではないか。それよりも自分の軸を見つけることが、最終的に自発的に頑張れることに繋がるように思う。

〇やりたいことをやる中での学び

(村中さん)ありとあらゆる制約条件を外して、やりたいことを考えることが難しくなってきていると感じる。本当に好きなことを考えるというのは、願望でありながら、ある種のスキルでもあると思う。そして、それを実際にやるからこそ学べることがある。いずれ将来やれるからと言ってその願望を押さえてしまうと、「冒険モード」の操縦術を学ぶ機会が失われるのではないか。やりたいことを、周囲のことを考えながらもやっていくというのは、経験の中で学んでいくこと。規制する、禁止する、ということが力を奪っていることに気を付ける必要がある。

〇叱るは繰り返される?

(村中さん)叱られて強くなったという人は確かに一定数存在する。問題は、そういう人だけがメディアで美談として取り上げられること。これは「生存者バイアス」と呼ばれ、叱られ、厳しくされたことで上手くいかなかった大多数は表に出てこない。そうではなく、大多数のエピソードを知ってもらうことが必要。

〇校則

(中高生)靴下の色と長さが決められていた。女子生徒の髪を結ぶ位置も校則で決まっていた。「社会に出たら校則くらい守れないと社会のルールを守れない」と言われたが、納得できなかった。

(中高生)ツーブロックはだめという校則があったので改善を訴えたところ、風紀検査で違反者ゼロになったら許可するという条件が付けられた。

(村中さん)何のために教育しているのか、というところが問われている。これは教育システム全体の課題で、現状のシステムでは、こうした管理したいという欲求を生み出してしまう仕組みになってしまっているのではないか。

〇叱るは手放せる

(村中さん)叱る依存は脱出できる。自分が行動を起こすことで変えられるという感覚を手に入れることが、学習性無力感から脱出するためのスイッチになる。また、叱る行為は、権力構造があるから維持される。親子の権力構造を壊していくために、<叱る依存>の内容を子どもにも共有するのも一案ではないか。

【主催者より】

子どもの権利を大切にしよう!というスローガンは、とても素晴らしいもので、子どもの現状を何とかしたい!と思う人々の心を動かします。でもそれだけでは足りないのでは、むしろその正しさがゆえに、葛藤したり追い詰められたりもする子育て中の養育者、そして子どもたち自身に納得してもらえる活動にしていきたいと思い続けてきました。今回シンポジウム「叱る依存におちいらないために」を、中高生のみなさんと一緒に作ることができたこと、また「叱る人を叱る内容にしない」ということに全力で心を砕いてくださった村中さんのお話をきけたことは、私たちの今後の活動にとって大きなターニングポイントになったように思います。 (㈵子どもNPOセンター福岡 事務局長 牛島恭子)

本シンポジウムは、企画、当日運営を三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社の協力のもと開催しました。

トークセッションで発言してくれた中高生が、叱られたときに自身の主張をせず黙ったり、叱られ慣れたりしていることを話してくれました。村中さんがご紹介になった「人から与えられた苦痛や我慢で人は強くはならないし、成長もしない」という研究知見を思い起こしつつ、日本社会で近年注目されている「子どもの意見表明」が様々な場面で、より多くの大人に重要だと感じてもらえるとよいなと感じたシンポジウムでした。 (三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)担当者)